2012会長講演要旨
エネルギー蓄積素子を用いた車両と省エネの話題

海外鉄道研究会会長 曽根 悟

 電池動車・電池機関車の問題は、鉛電池という重い、そのわりには蓄積エネルギー量の多くない電池が使われていました。蓄積エネルギーが小さいため、ドイツやチェコなどではレールバスのような小出力かつ短距離用に限定して使われておりました。日本では昔、小田急の向ヶ丘遊園や西武山口線で鉄道の駅から遊園地まで、「おとぎ電車」のようなせいぜい2〜3kmを結ぶ鉄道で使われていました(編集部注:あらかじめ充電した蓄電池をいくつか用意しておき、一定距離を走行すると、いちいち蓄電池を取り替えながら運転する必要があった)。
 近年は「ニッケル水素電池」「リチウムイオン電池」「電気二重層キャパシタ」の三つが注目を浴びています。目方あたりの蓄積量が一番大きいのがリチウムイオン電池で、これが非常に高性能のため、昨今の携帯電話やデジカメのように「毎日充電しなくても大丈夫」とうくらいに便利になったといえます。
 例に出したうち、前の二つがほぼ一定の電圧を保つ電池なのに対し、三つ目はいわゆるコンデンサで蓄積量に応じて電圧が変わります。かつてはナノファラッドあるいはピコファラッドというきわめて小さな単位で表せる容量しかありませんでしたが、近年はマイクロファラッドの100万倍、つまり1ファラッドという大きなものが出現しました。
 これらすべてが鉄道車両の動力源として使えるくらいになったのですが、それぞれに顕著な違いがあります。図で示しますと、

エネルギー密度電力密度価格材料供給
ニッケル水素電池
リチウムイオン電池××
電気二重層キャパシタ

という関係になります。
 エネルギー密度というのは単位重量あたりの電力量のことで、リチウムイオン電池が一番大きく、電気二重層キャパシタはちょっと小さい、ということになります。一方、価格や材料の供給の面では、リチウムは大半を中国に頼っているということで、将来はともかく当面は高くて安定供給が難しいという問題をもっています。

 電池を使った蓄電と何かを組み合わせたものがハイブリッドですが、最も組み合わせやすいのが集電と蓄電です。集電というのは、いわば普通の電車です。パンタグラフを上げて架線から供給されます。それができるなら蓄電は要らないではないか、というのは昔流の考えで、今や集電だけでは済まない状況というのが出てきています。
 ただハイブリッドという言葉の意味は、両用ではなく混用です。単に両用してしまうと使い勝手の悪いものが出来上がることもあります。直流でも交流でも走れる交直流電車は、直流だけで走る車に比べて重い変圧器を載せなければならなかったり、交流区間で走るには厄介な直流区間用の装備を抱えることになってしまう。つまり両用というのは、便利ではあるけれどそれぞれの使い方においてベストではない、というものになりがちです。「両用の利点に加えて混用の利点も発揮すべきもの」というのが、ハイブリッドを開発するポイントとなります。
 当面の活用可能性が高いのは、

  • 集電・蓄電ハイブリッド車両
  • 発電・蓄電ハイブリッド車両
  • 集電・発電・蓄電ハイブリッド車両

ということになりましょうか。発電はディーゼルエンジンが現実的でしょう。近未来の技術では燃料電池というもっといいものが出てきそうで、燃料電池と蓄電池という組み合わせになるかもしれません。
 集電・蓄電ハイブリッド車両は集電だけより、車両性能の向上や回生失効の軽減、回生能力の向上が期待されます。それから、例外的な非電化状況下、停電した場合とか車庫内といった場所でも走行できます。車両性能の向上というのは、実は集電の限界対応なんです。集電には限界があって、あまりにも大きな電力は、電圧降下とか集電能力低減とかいろんな問題を引き起こします。蓄電は、集電容量が足りないときに使えるのです。
 でも、そういう考え方で研究している人はあまりいません。むしろ、ブレーキの方が重要です。
 現在の回生制動というのは、制動によって発生した電力を架線に返します。それを他の車両が使うことで省エネルギーになるわけですが、他に電車がいない場合や、たまたまいても惰行している場合には電力を使いませんから行き所がなくなってしまいます。行き所がない、つまり回生ブレーキが効かなくなる「回生失効」という現象がしばしば発生しています。ブレーキという重要な装置が機能しないでは実用になりませんから、結局は現在も回生失効時には摩擦ブレーキに頼っています。
 山手線や大都市の地下鉄のようなたくさんの電車が走っている区間では、回生失効は現実的には起こらないのですが、列車頻度が低かったり連続急勾配の線ではそうもいかないのです。連続急勾配区間の下り勾配で回生制動が効かなくなったから摩擦ブレーキばかり使うのは危険です。そういうことがないように、変電所にインバータを置いています。蓄電とは、変電所ではなく車載の蓄電池が吸収するのです。
 ブレーキで得た電力を車両に蓄積しておくことは、車両性能そのものを上げることにも役立ちます。電車線から各列車に供給できる電力以上にパワーを出したい場合に、不足分を車両の蓄電池がため込んだ電力で補い、より大きいパワーで電車を加速させることができます。にもかかわらず、加速はあまり考えずに減速のことばかり考えているのは、回生失効が怖いからです。
 例えば国鉄の101系とか1960年頃までの電車は加速力が非常に低く、しかし90km/hくらいから高いブレーキ力で減速して駅に停めていました。ブレーキ時に定格電圧375Vのモータの2.5倍ほどの電圧で発電をするのでそれに耐える設計をしていまして、発電した電力は熱として捨てていました。民鉄も同じようなシステムを採用していたものの、1970年頃から「せっかく発電したのに熱として捨てるのはもったいない」という動きが始まりました。新しい「チョッパ制御」という方式で、発電ブレーキではなく回生ブレーキが使えるようになったわけです。しかし、そうなると電源電圧に縛られて、高速時のブレーキ力が発電ブレーキより顕著に低くなってしまいます。これは今だに解決しきってない問題で、だから「昔に戻りたい」ニーズが強いのです。そこで現状で最もよい方法が、車上の蓄電池に電力を吸収する方式と架線に返して他の列車などで使う方法の両方を組み合わせることです。こうすることで、従来の2倍くらいのパワーを得ることができます。
 車両性能向上については、AかBかではなく、混用することで効果が得られます。電車線からと車上の蓄電からの両方同時に行えば、昔の発電ブレーキ程度の大きなブレーキ力を得ることができます。回生失効の軽減については、他の力行車が近くにいなくても自車で蓄積すれば効果を得られますし、架線に戻すという従来型と併用すれば他車の力行にも役立ちます。
 集電・蓄電ハイブリッド車であれば、景観地域で架線を張れない区間や車庫内のように架線を省略すれば効果的な区間のような例外的な非電化区間で使えます。景観地域で架線を張れないという区間はライトレールにすでにあります。上海のトロリーバスは、王府井などではトロリーポールを下げて電池で走行し、上海の環状電気バス(11系統)では停留所で集電装置を上げて30秒間電気二重層キャパシタに充電して走行します。それから、先に触れたとおり何らかの事情で架線への通電がストップしたケースです。しかし、車両だけでは十分ではありません。電力が逼迫したとき、計画停電のようなものが起きないようにピークそのものが低くなる工夫をしておかないといけないからです。

 次に直流電化鉄道と地上蓄電の問題です。
 日本の場合、直流区間の電気施設は、路面電車・地下鉄など一部に600Vとか750Vがありますが、1500Vに統一されています。とはいいつつ、実際には1100〜1850Vでまともに走らないと実用にならない、とされています。家庭用100Vの電化製品は、普通そこまで上下に幅を持たせていません。日本の電力というのは非常に高品質ですから、せいぜい95V〜105Vくらいの幅で使い物になるのです。
 でも鉄道では、これくらいの大きな幅です。なぜそうなるかと言いますと、どうしても変電所と電車の間の電圧降下が大きくなってしまうからです。送電線を太くすることは、経済的な限度近くまですでにやっています。+の電流が流れている架線やフィーダは抵抗の低い銅やアルミでできていますが、パンタグラフから車両を通して変電所に戻すのはレールで、鉄製ですから銅やアルミに比べると抵抗が大きいのです。これを解決するには、世界の直流電化の標準電圧である3000Vにすればいいのです。電圧が2倍になって電流が半分になりますから、電圧降下率は1/4になります。でも、今から3000Vに換えるなんてとても経済的にペイしません。
 209系とかE231系に「以前の47%の消費電力」なんて表示しているとおり車両はどんどん省エネになっているのに、電源の動きは進んでいません。省エネ電車が増えると変電所も小さくできるか、というと逆なのです。省エネ電車が登場するたびに、変電所は増強されてきました。なぜなんでしょう。それは、昔の103系の最大電力よりも209系やE231系の最大電力が大きいからです。最大電力に対応した変電所をつくるというルールからすると、当然増設しなければなりません。でも最大電力が大きくなっても結果的にエネルギー量は半分になります。要するに、大きくて重い施設をつくりながら利用率はどんどん下がっているのです。
 これを解決するためにも、ピーク電力を減らして均すメリットが非常に大きいのです。
 発電・蓄電ハイブリッド車については、JR東日本では、キハE200というのが小海線で3両と、ほぼ同じメカニズムで観光用のものとしてHBE300というのが五能線、大糸線などで少なくとも8両保有しています。JR貨物はHD300という入替機関車を1両つくって実験しています。基本的にはディーゼルエンジンで発電したものでモータを回すという形のものです。JR北海道がキハ160で実験したのは、エンジンのパワーとモータを機械的に足し算して走らせるもので、JR西日本がキハ127で試作し実験しているのも、もっと簡易なパラレル方式です。これらのものが今後増えていくような気配です。
 その発電・蓄電ハイブリッド車両と液体式DMUとの違いは、まず回生制動が可能という点が挙げられます。内燃機関では、昔々の蒸気機関でも現在の液体コンバータのディーゼル機関でもエンジンブレーキを回生することはできません。
 それから、低速運転時の特性を向上できます。停まっている時にはパワーは要りませんから専ら蓄電によってサービス電力を供給し、加速の初期も力は要るけど大きなパワーは不要なので蓄電で対応し、ある程度スピードが出てくるとエンジンを起動して切り替えるという方法を採れば燃費が向上します。燃費もよくなりますし、排気ガスもクリーンになるし、エンジンの保守も軽減されます。一定の回転数でエンジンを回すならば効率的な燃費も排ガスのクリーン化も保守の軽減も実現できるのですが、低速から高速まで汎用な使い方をしたいとなると、全てがどっちつかずなものになります。燃料と空気との比率を電子制御できるようになってかなりよくなりましたが、一定速度で回し続けるのに比べてまだまだよくありません。というわけで、低速回転時の仕事を蓄電に任せることで、エンジン側の性能を高めることができるわけです。
 それから、EMUとの協調運転がより容易になります。現在でも、液体式DMUと電車の協調運転は不可能ではありませんが、あんまり簡単ではありません。これが非常にやりやすくなります。低速運転時の特性が非常にいいのと、逆に高速運転にエンジンを特化でき、やり方によってはモータのパワーを合算することもできますから高速特性の向上にも余地を残しています。
 では、集電・蓄電・発電のハイブリッドと集電・蓄電を比較しましょう。私が震災を機に提唱している「電気車の加速特性の変更」が、集電・蓄電ハイブリッド車両にとって現時点では大きな経済的問題であるエネルギー蓄積素子の容量を削減するのに有効です。なんといっても大容量のエネルギー蓄積素子はまだまだ高価ですから、小さな発電装置を搭載することで蓄積素子の容量の小ささを補うことができます。
 JR貨物が東京のターミナルで使い出したハイブリッド機関車は、入替用ということで低速で大牽引力だからパワーは小さくて済みます。そういう小さなパワーに対応する程度の小さなエンジンと発電機で、比較的大きな速度を出す場合にも相応の負荷を電池にかける設計になっているはずです。この平均に毛が生えた程度のちょっとした発電装置を持っていると、短時間の大きなパワーが要る場合には電池がうまく機能すると考えられるわけです。
 ここまでお話ししたとおり発電はディーゼルエンジンが現実的ですが、将来的には燃料電池というものが出てきそうで、燃料電池と蓄電池という組み合わせになるかもしれません。

 最後に省エネとピークカットの話をしたいと思います。
 近頃のように広範囲な停電が起きうるという危機的な時には、ピーク電力の削減が重要です。発電可能な電力に対して使いたい電力がオーバーすると雪崩現象的に不安定な状況が起き、最悪の場合、かつてニューヨークであった大停電のような、非常に広域に渡って長時間の停電が起こってしまう可能性があります。それが非常に恐いものですから、そういったことが起きないようにするには、ピークカットの重要性が大きいわけです。
 でも電力会社からみると、多くの需要先が設備と実際の消費電力がほぼ比例関係にあって、供給すべき電力が計算しやすいのに対し、大口のユーザでまったく別の特性を持っているのが電気鉄道です。先ほど言ったとおり、電車はどんどん省エネ型になっているのに電鉄用の変電所はどんどん増強している。つまり、設備容量ばかり大きくて、いつ何時いっぱいになるほどの電力を消費するかわからないのに、平均するときわめて小さい電力しか供給を受けていないのです。設備容量の10分の1なんて小ささです。要するに、電鉄会社の変電設備は一般の常識からすれば異常なのです。

 10年以上も前から東京の地下鉄に提案していることは、川を潜るなどで下り坂を走るのに70km/hでブレーキをかけて上り坂にさしかかったらモータを回して力行する、というのをやめて100km/h程度までブレーキをかけずに上り坂を惰性で登り切って次の駅に到達すれば、電力の消費が減り、突然の停電が起きても次駅まで走行できる可能性が高まります。車両の性能は100km/hに耐えますから、規則さえ改めれば実行できるのではないでしょうか。
 それから提案したいのは、ノッチごとの走行特性(電力=速度×引張力)を少し変えることです。E233系などの5段階のノッチのうち、常時使われる3〜5ノッチの特性を変えて、低速時の引張力を落とさずにピーク電力を下げる特性に変えるのです(例えば3ノッチで50%、4ノッチで75%)。電力供給が厳しくなっている地域を沿線とする路線で状況に応じて3ノッチか4ノッチへの制限を実行するわけです。非常に簡単な方法で電力逼迫時の電車運行が可能になります。むろん速度は落ちますが、一個列車が遅れるだけでなく指令によって全列車でいっせいに均等に遅れますから、旅客サービス上大きな問題は発生しません。
 実際にJRで話を聞いてみると、電力を7割に制限すると、各駅停車でいえばだいたい4秒程度遅くなるそうです。4秒というのは大きな数字ですが、お客さんに大きな迷惑をかけずに済みます。で、電力危機が落ち着いたら、指令を解除すれば、遅れが出ていても折り返しなどで吸収できて、以降のお客さんにも迷惑をかけずに済むと思います。

(2012/01/28 海外鉄道研究会総会にて)


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