2005会長講演要旨
さまざまな国際比較

海外鉄道研究会会長 曽根 悟

 先ずは問題提起のために、さまざまな視点からの国際比較をしてみよう。

  1. 線路
     日本の鉄道技術レベルは高いと言われるが、線路関係では果たして…
    1. スラックと誤差
       スラックとは意図的にカーブのところで軌間を広げる量のこと。
       車両側での誤差は殆どないのは言うまでもないが、レール側での誤差が日本は広い。フランスTGVと新幹線では2倍差、在来線なら3倍差。
    2. 分岐器
       どのように配置するかの思想が日本と他国では異なる。
       欧州の大ターミナルでは分岐器の種類と数が多く、運転の自由度が高い。
       日本では分岐器の種類・数を少なくしていたので、運転の自由度が低い。
       2年前に中央線御茶ノ水駅構内の分岐器を交換し、特注品(曲線分岐)を標準品に交換したが、かえって改悪と言える。
    3. 複線と単線並列
       日本の新幹線は左側通行。
       諸外国の高速鉄道は単線並列で、各所に高速のままスイッチできる分岐器がある。
       今秋開通予定の台湾新幹線の車両は日本製だが、線路は欧州流の単線並列。
    4. 曲線とロングレール
       日本には幹線でもいまだにジョイントレールが多く残っている。
    5. 勾配の表現
       英国では「○分の一」、他国では「○パーミル」で表現。
       最終勾配の考え方も国によって異なる。
  2. 車両
    1. 電車は英語では何と言うか
       国際間で「車種」に関する議論がかみ合わないことがある。特に「電車」の表現。
       日本では多くの人は鉄道のことを「電車」という。
       日本の「電車」に相当する近い英語は、専門家相手なら"EMU:Electric Multiple Unit"だが、日本ではEMUでないものも「電車」といっている。「電車」といっても電動車でないものも入っている。
       日本の電車形態をどう英語で表現するかは学会でも議論している。
    2. 制御車は電車か気動車か客車か
       客車・電車・気動車がそれぞれ系列として排他的に存在しているのは日本だけではないだろうか。
    3. 動力集中方式からの脱却
       欧州では地下鉄や路面電車を別として動力集中式が主流であったが、交流モーターが普及してきたことで日本のような動力分散式へ移行しつつある。逆に日本は純粋な動力分散式(全電動車)から、付随車比率が高い形態すなわち動力が集中しつつある。
  3. 運転
    1. 時刻表
       「時刻表」を「普通の人」が読むのは日本とドイツくらいらしい。
       トーマス・クック時刻表は本家版よりも日本版の方が発売部数が多い。本家は業務用だが、日本では一般ユーザーが使っている。
       日本・ドイツ以外では「時刻表」は無料配布の路線別行き先別時刻表が駅に備え付けられ配布されていることが多く見受けられる。
       東海道新幹線では大都市間では非常に便利なダイヤだが、熱海などでは非常に不便なダイヤだったりする。時刻表の作り方と実際のダイヤの便不便に関係があるように思える。
    2. 優等列車とは
    3. 停車駅は階層構造には限らない
       日本では「優等列車」があって当たり前で、停車駅も「階層構造」(特急停車駅はすべての列車が停車する等)だが、諸外国では優等列車(特別運賃)の概念がないものがあり、停車駅も階層構造でないことが多い。
    4. 発着番線固定の利害得失
       欧州の駅に行くと到着と出発の各時刻表が掲げられているが、発着番線があらかじめ決まっておらず、直前表示されることが多い。日本では基本的には発着番線は固定。発着番線を固定・可変にすることにはそれぞれのメリット・デメリットがある。
  4. 営業
    1. 運賃と料金
       かつての英国がそうであったが、日本ほど運賃が分かりにくい国はない。
       世界的に都市交通は事業者に関係なく共通運賃が主流。
    2. 「信用乗車方式」普及の風土
       欧州では乗車券を都度買って乗車している人が少ない。利用者は割安な年間パス所持なので、無改札方式が主流である。日本ではこれを「信用乗車方式」と誤解して名付けられているようだが、これは客を信用しているわけではなく、不正乗車が結果的に年間パスを買うよりも割高になるような仕組みをつくっている。
    3. 払い戻しのルール
       スペインAVEは5分以上遅れると運賃全額払い戻しをしていて、日本にくらべると遅延率も高いため払い戻し額も多いが、当のスペイン国鉄は「広告費」として割り切っているという。
       日本の新幹線は2時間以上の遅れでないと払い戻しはない。
    4. 新幹線は通勤列車か
       欧州の高速列車と新幹線の大きな違いは車内設備にある。欧州の人間に言わせると新幹線は「座席」しかないので「通勤列車」だと言う。
  5. 安全文化
    1. 欧州も日本流を部分的に導入
       英国のHSTが車内からの「外開き」扉には驚き。あくまでも自己責任だったが、最近は無くなってきた。寝台車の火災事故をきっかけに難燃化の強化等を取り組みだした。
    2. トランジットモールと自己責任
       欧州で見られるトランジットモールだが、日本では不注意な歩行者がケガをした時の反応が怖い。安全文化が欧州と異なる日本での拙速な導入はどうだろうか。

(2005/01/16 海外鉄道研究会総会にて、文責:森村)


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