2000会長講演要旨
オランダの鉄道博物館

海外鉄道研究会会長 小池 滋

 1999年9月初旬に、わたしの本職である英文学に関係した国際学会が、オランダのアムステルダム大学で開かれたので、それに出席した機会に、一日早くオランダ入りして、あちこちの都市の市内電車や地下鉄に乗ってまわった。しかし、わたしの主な狙いは、あまり広く知られていないオランダ鉄道博物館の訪問だった。
 アムステルダムから南へ40キロほどのところに、古い都市ユトレヒトがあり、快速列車なら30分くらいでユトレヒトから3系統のバスに乗り、5分ちょっとくらいでマリーバーンという停留場に着くから、そこで降りてまた5分くらい歩いたところに博物館がある。かつてはマリーバーン駅であったのを、廃線になって使われなくなったので、それを利用して博物館にしたものだから、プラットホームや跨線橋などはそのまま使われている。
 オランダの鉄道の誕生は1839年9月20日に開業した、アムステルダムからハーレムまでの20キロ足らずの路線とのこと。日本と同じで、この時の蒸気機関車は全部イギリス製を輸入して使った。
 そのうちの1両、「デ・アレンド」号が博物館に置かれてあるが、残念ながら実物ではなく、後で作られた実物大のレプリカである。しかし、それ以後の展示車両はほとんどが実物で、蒸気機関車、電気機関車、ディーゼル客車、貨車など。ただオランダは土地が狭く、高い山はないから山岳用の車両はなく、変化に乏しいのは仕方ない。唯一の変わり種は、旧植民地だったジャワ島で走っていた大型の蒸気機関車である。
 お客へのサービスとして、かわいいディーゼル機関車が木造客車に客を乗せて、構内の線路をゆっくり一巡してくれる。その他にも、ミニ鉄道線路の上をタリス号の形をした小さな列車がお子さまを乗せて走っている。このあたりは日本を含めた、どこの国の鉄道パークも同じである。
 一隅に小劇場があって、一日に何回かビデオ放映をやっていた。また売店には、いろいろなグッズが並んでいて客を呼んでいた。ガイドブックはオランダ語のものしかないが、イラストが多いから何とか見当がつく。英語版はごく簡単なパンフレットしかない。また館内の展示物や文字の説明よりも、絵と音を使った説明の方が多いのは、外国人や子供の便宜をはかっているのだろう。
 わたしがひとつだけ残念に思ったのは、市内電車や地下鉄が発達している国なのに、都市交通としての鉄道にまったくスペースをさいてくれないことだった。ところが、アムステルダムに戻って、市内観光ガイドブックを読んでいたら、この不満は解消した。
 市内の中心、有名な国立リークス美術館などが立ち並ぶ博物館広場の近くに、市内電車専門の博物館があることを教えられたからである。ところが悲しいかな! 夏の7月8月は木、土、日曜の3日間開館なのだが、それ以外は木曜だけしか開かない。いまは9月で、次の木曜まで滞在を延ばすことはできないので、わたしは泣く泣く諦めた。皆さんも、どうぞご注意下さい。次に来る時はぜひ木曜を入れるよう日程を組んでください。
 おそらく、毎日開いても客が来ないから、維持管理のコストを考えて週1回開館となったのだろう。あるいは、無給のボランティアによって運営されているために、そうなったのかもしれない。ともかく、古い車両の保存公開の難しさはどこでも同じものだと痛感させられた。でも、市電博物館のない日本から来た旅人は羨ましい気持ちになったことを白状しよう。

(2000/01/30 海外鉄道研究会総会にて)


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