2008年夏の韓国.2-貨物列車

中澤 文武

 引き続き、8月に訪問した韓国の鉄道、今回は貨物列車の取材結果について紹介します。

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ソウル北部の貨物の要衝、城北(ソンブク)駅


1.概要
 韓国鉄道公社の貨物輸送は、ここ10年近く減少傾向が続き、2005年度は年間輸送量4166万トン、101億トンキロにまで下がっています。車扱い輸送量が、コンテナ輸送量の2倍から3倍あることが我が国との相違点のひとつです。
 大きな動きとして、我が国のフレートライナー輸送をさらに輸出入ISOコンテナ対象にまで拡げたような、物流業者とタイアップした直行コンテナ輸送、「ブロックトレイン」という新施策も展開しています。JR貨物との提携事業、SEA&RAIL&SEA輸送もその1つと思われ、韓国では鉄道貨物を国内だけで完結しない物流を構想しているようです。南北直通貨物輸送は残念ながら緊張悪化のために中止していますが、実績は残ったこと自体が大変意味があり、やはり夢は半島を超えた大陸へのランドブリッジ輸送に広がります。  

2.コンテナ輸送

 韓国鉄道公社の年間コンテナ輸送量は、我が国の約半分ですが、その大半がソウル-釜山間に集中しています。コンテナターミナルも大幹線京釜線に集中していますが、何と言っても釜山港という世界屈指の大港湾を持つ強みは大きく、ターミナルも我が国のコンテナ駅より大規模です。主要なコンテナ駅は、釜山港にはり巡らされた臨港線と釜山鎮(プサンジン)貨物駅、釜山港を補助する陸の港、梁山(ヤンサン)ICD、慶尚道北部の要、若木(ヤンモク)駅、忠清道の大田操車場、天安の斗井(トジョン)駅、そしてソウルの陸の港でもある五峰(オボン)貨物駅、通称南部貨物基地(儀王ICDとも)です。他に沃川(オクチョン)駅、新灘津(シンタンジン)駅、鳥致院(チョチウォン)駅などにもコンテナ施設があります。
 韓国のコンテナ列車は最大で30両編成、1両の荷重が52トン〜56トンで、列車重量は2000トンに達します。最高速度は120km/h、ソウル-釜山間を大体6時間半で結んでいます。
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--釜山郊外、梁山市をゆく釜山鎮行きコンテナ列車--
 地下鉄湖浦駅から約1kmくらいの所で、沿道に桜並木が続いています。編成は26両編成。

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--ソウル郊外、水原市、京釜線成均館大駅付近を走るコンテナ列車--
 南部貨物基地へ向けて、ラストスパートする27両編成の列車。土砂降りの中を走って行きました。貨車は全てISO専用、2TEU車と3TEU車があります。ソウル郊外儀王市にある五峰駅(南部貨物基地)は、実地を見聞するより、google earthで上から見たほうが、その規模が実感できます(韓国の市販地図帳は、車輌基地や貨物駅、専用線の類いは詳細には書かれていません。トンネルの位置すら分からないようにしている地図すらあります。防衛上の理由と思われます)。

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-濃霧の早朝。京釜線洗馬(セマ)駅付近のソウル方面行きコンテナ列車-
 ソウル郊外南方50kmくらいのところ、水原市と烏山市との境界は盆地と山が連なるソウル付近から穀倉地帯京畿平野への峠道でもある。まだ朝6時頃で濃い朝霧が立ちこめる。周辺は3年前の通勤電車開通により発展、大規模造成の最中である。

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--鳥致院駅でのコンテナ荷役風景--
 我が国、JR貨物では、まだ総計3台しか導入されていないISOコンテナ対応の荷役機械、リーチスタッカーがこの駅には2台も配備されています。これが韓国のコンテナ駅の標準装備です。五峰駅と釜山鎮駅にはトランスファークレーンまであり、貨物輸送の格の違いを感じます。欧米からの舶来品と思われます。我が国でも国産化したのが2002年あたり、1台5千万円近くします。ちなみに手前のスケルトンボディでないフラット床タイプのコンテナ車は、長物車との兼用貨車です。載せる荷物には、軍用兵器や装備も含まれます。3軸ボギー台車で荷重100トン対応の、戦車輸送貨車まであります。韓国では軍用列車が比較的頻繁に走り、そういうのを撮影すると、碌なことにならないので避けた方が賢明です。

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-午後3時過ぎ、亀尾(クミ)駅を通過する釜山方面行きコンテナ列車-
 慶尚道北部の中堅都市、亀尾市にはコンテナターミナルも存在します。いわゆるエキナカ施設(概してJRより仰々しく派手)を建設中の構内を、29両もの長大編成が高速で走りぬけます。車体が大きくホームが低いので迫力も倍加します。

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-韓国の関ヶ原、秋風嶺越え、信号所で列車退避中の貨物とすれちがう-
 釜山から帰りのムグンファ号車内から撮影。韓国の慶尚道と全羅道を分ける峠で、10パーミル勾配が連続するあたりです。この停車場はホ−ムが無く信号所と思われます。西の里信号場や太宰府信号場と同じ、列車退避のための信号所です。コンテナ列車が旅客列車の通過待ちをしています。大幹線京釜線でも人口希薄地帯があり、日に数本しか列車の停まらない信号場同然の駅が結構あります。

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-梁山ICDへの専用線を往く入れ替えコンテナ列車-
 釜山港は現在過密化し、増加する膨大な需要に応えるには限界になりつつあります。港湾の拡充、新しい外港光陽港の建設だけでなく、釜山の郊外、梁山市に陸の港と言えるICD(Inland Container Depo)を造り上げました。開設してから10年たってなく、現在も造成を行っている最中です。高速道路のICが至近にあり、ここ京釜線の物禁(ムルグム)駅から貨物専用線が延びています。写真の専用線は本線を立体交差し、そのままコンテナターミナルへつながっています。

3.車扱い輸送

 韓国鉄道公社で最大の輸送物資はセメントです。我が国ではほとんど廃れてしまいましたが、韓国では全国的にセメント列車とセメントサイロを持った駅があります。その要は沿線に石灰石鉱山や炭坑、セメント工場の屹立する太白・嶺東線といった半島横断線です。同じ半島横断線を形成し、複線電化された忠北線も重要なセメント路線です。沿線には鉱山や工場への専用路線が多くあり、かつての日本の物資専用輸送を思わせる光景が広がっています。
 一方で、有がい貨車1両単位を主体にしたヤード輸送系の列車が今も残り、中堅駅の片隅に、小口貨物の荷役施設と数両の貨車をよく見かけます。逆に言うと、合理化が進んでおらず、人手と時間のかかる輸送を現在も行っているということでもあります。
 物資専用列車で、日本では見かけなくなった物として、国産の石炭(製鉄所コ−クス用)、クリンカ、乗用自動車、冷延コイルなどがあります。
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--京釜線を走る上りセメント列車--
 ソウル近郊の駅、成均館大駅の午前10時すぎ、雨の中を20両編成のセメント列車が通り過ぎます。このような列車が韓国ではコンテナ列車以上に当たり前のように見かけます。ソウル周辺でセメントサイロを持つ駅はかなり存在し、産出地からそれらの駅へ輸送するので、列車によってはソウル都心部の通勤路線まで足をのばしています。特にソウル北部の水色駅、城北駅、忘憂駅に大きな貯蔵設備があり、そこへ往く列車や仁川方面の列車も多い。

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-専用私有貨車の威容-天安駅で-
 JRのタキ1900に似た、847000型と言われる一般的なセメント車です。1990年代後半に製造された貨車で、最高速度は90km/h、荷重52トン。側面に双龍洋灰(サンヨンヤンフェ)と書かれているとおり、日本の太平洋セメント系列の韓国大手セメントメーカー、双竜セメント所有の貨車です。双龍という会社名はおそらく地名(太白山地の近くに存在し、石灰やセメントが主要産業)から来ていると思われます。私有貨車制度は日本と同じです。同系列では他、アジアセメント、現代セメント等の私有貨車もあります。

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--京畿道平沢市、京釜線芝制(チジェ)駅を通過するセメント列車--
 ここはソウルから南60kmあたり、最近通勤電車専用の駅として開業しました。朝九時前。列車はフランススタイルの8000型電機機関車が牽引する上り列車です。電化の進展により、1970年代から半島横断路線で活躍していたこの電機が、京釜線でも走るようになり、今はセメント列車専従といってもよいほど見かけます。韓国では貨物の大半がDL牽引ですが、セメント列車はEL化がかなり進んでいます。最高速度85km/h、出力4000kw級の機関車で、新鋭8200型登場後は専ら貨物用に使われています。

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--編成実に30両、EL重連で牽引するセメント列車--
 成均館大駅駅を8000型ELが重連で、雨の中太白山地の産出地へ向かって行きました。セメント列車は基本的に重連で引くことが多く、特に勾配のきつい嶺東線では3重連も常態化しています。この列車の場合おそらく返空列車なので、路線有効長いっぱいの両数を繋いでいると思われますが、満載でも26両編成+機関車重連という列車も多く見かけます。1両70トンとして列車重量2000tになります。我が国よりも数段上の大単位輸送を実現しているのが韓国鉄道貨物。インフラ部門(鉄道施設公社)と営業部門が上下分離し、日本のような車輌数単位のアボイダルコストがなく、軍事輸送という側面が今も重要であることも、貨物輸送の強みになっています。

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--中央線徳沼駅、セメント専用線の横を無がい貨車が通過--
 この線にしては珍しく8000型単機が貨車を連ねてきました。貨車の積み荷は、石炭! 製鉄所への無煙炭と思われます。他、発電所などの需要もあるかと思います。夏なのでオンドル燃料とは思えません。半島内陸部をソウルから慶州、ウルサン、釜山と結ぶ中央線は半島横断線と一体化し、以前より電化されていた貨主客従の路線で、ソウル側の忘憂駅にヤード機能を持った貨物施設をはじめ、大半の駅で貨物扱いがあります。通勤電車が来るようになったこの駅も例外ではありません。

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--京元線城北駅北方をのぞむ--
 ソウルの北の貨物の起点が、ここです。広いヤードにセメント専用線、各種専用列車荷役線が枝をのばしています。遠くにハイキングで親しまれる道峰山が見えます。手前に新型ウイングルーフワゴン車、その向こうにパレット対応有がい車、隣に石炭を黒々と満載した無がい車、さらに隣には明らかにコンテナ車とは違う平板張りの怪しげな長物車。日本では見られなくなった貨車のスポットとして楽しい駅ではあります。同様に京義線の水色(スセク)駅も規模の大きい貨物の拠点です。

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--京元線城北駅南方をクローズアップ--
 小規模の荷役用クレーン、低床ホームに転がってる荷役待ちの有がい車の向こうに、屋根付きの施設。あれは自動車輸送用の設備です。宇都宮にあったあれです。奥の上屋付き側線に停まる青い貨車こそ、日本では見られなくなった車運車です。ク5000に酷似しています。現代自動車のウルサン工場からはるばるここの現代専用荷役線まで、1日1往復の自動車専用列車が存在します。

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--漢江沿いを走る京元線、ソウルの真ん中を貨物が往く--
 龍山から清涼里まで漢江にそって地上を走る風光明美な通勤路線、京元電鉄線ですが、京釜線や仁川から 中央線や京春線への短絡ルートでもあるため、15分サイクルの電車に混じって、様々な貨物列車がやってきます。写真は有がい貨車やセメント貨車を連ねた混載貨物列車です。地下鉄車輌の甲種輸送の場合、ソウルの地下駅までディーゼル機関車が進入してきます。

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-一般的な駅の荷役設備--
 ヤード輸送有がい貨車用の、中堅駅の小さな設備。ダイナミックなコンテナターミナルがある一方で、多くの駅にこのような施設が存在するのも韓国鉄道貨物の魅力です。雨もしのげない駐車場のようなホーム、貨車が数両停まれる程度の荷役線、うずたかく積んだパレット、オレンジのビニールシートをかぶせただけの積み荷(多分肥料か米)、フォークリフトもなく。かわりに小さなベルトコンベアが積み込みの為の重要な機械です。まだパレットやフォーク荷役対応でない貨車があるため、荷役は基本的に人力で、時間になると事務所から3人くらいの作業員がベルトコンベアを貨車にはしかけて荷物を一個ずつ手作業で積んでいきます。労働組合の力が強く、韓国の鉄道は機関車2人乗務など、意外な点で合理化が進みません。

 このほか、画像では紹介出来ませんでしたが、京釜線龍山駅、永登浦駅、始興駅、京仁線の富川駅や梧柳洞駅などに荷役施設、仁川周辺に臨港線もあり、ソウル周辺でも多くの貨物駅や荷役施設を見ることができますが、意外と塀や囲い(最悪の場合トーチカ)がしてあって、観察しづらいのが難点です。とにかく韓国は貨物好きには大変魅力のある国です。

.  取材日2008-8/29〜9/1。