2008年夏の韓国
中澤 文武
今年、8月の末に訪韓し、ソウルとプサンを取材しました。毎年目まぐるしく変わ
る、韓国鉄道公社の最新情報です。
釜山市郊外、湖浦(ホポ)地区を走るKTX
1.概要
KTX開業以来ここ数年、韓国の鉄道は電化の全国的な規模での延伸、ソウル首都圏
の通勤路線網の拡充、日韓RAIL SEA RAIL輸送や開城までゆく南北統一貨物列車の運
行など、21世紀初頭と比べても大きく変ぼうしています。
. --最近のトピックス--
1.南北連結鉄道の運行-昨年末から共和国側の開城からソウルまで、平日1日1往復の
貨物列車を運行している(今回の取材では確認出来なかった)。韓国の市販地図には、
開城工業団地の道路地図を掲載しているものも出回っている。
2.今年1月、錦江河口橋梁の開通(一部線路付け替え)により、長項線と群山線が結
ばれた。従来の長項止まり全ての列車がソウルの龍山駅と群山駅を直通し、一部は両
路線と湖南線を廻って西大田駅まで乗り入れている。長項線の改良工事も施行され、
これで大田-天安間を経由せず全羅道からの列車を迂回させることも可能になった。
韓国南西部の光陽港からのコンテナ輸送や群山港の紙輸送にも威力を発揮すると思わ
れる。
3.昨年12月、中央線の複線化が、ソウル東部郊外、八堂(パルダン)駅まで延伸、通
勤電車の運行も当駅まで延びた。沿線は漢江に沿うのどかな山間部で、開発はこれか
らだが、観光地が多く、早速ハイキング列車として重宝されている。
4.KTXを軸にしたフィーダーアクセスサービスの改善が毎年のように行われている。
特に東大邱駅や釜山駅を軸に、韓国南東部(いわゆる嶺南地域)の各地方都市への接
続列車体系をいろいろ再編している。一方、在来線乗り入れ可能という強みを活かし、
大田駅から東大邱駅まで在来線を経由し、途中の金泉、亀尾両都市に停車するKTXも
出現、本数も増えている。
5.幹線電化の完成-2006年に京釜線の秋風嶺周辺の電化により、韓国の主要幹線はお
おむね電化された。それをもとに、2007年春から、本格的な電気機関車による運転を
全国規模で展開している。旅客が主体だが、貨物もセメント列車に電機牽引列車が増
えている。
6.日韓共同輸送-政治的に何かとある両国だが、物流では共同体勢が進んでいる。代
表格は2007年から始まったRAIL SEA RAIL輸送。JRサイズの5t12feetコンテナを東京
から福岡までJR貨物、福岡から釜山までフェリー、そして釜山(正確には釜山鎮貨物
駅)からソウル南部貨物基地までは韓国鉄道公社の列車で毎日運ぶ。ISO40feetサイ
ズのラックコンテナに積載された状態だが、JRのコンテナが韓国の鉄路を走る、夢の
ある輸送である。道中延べ4日かかるが、船より速く、飛行機より安い輸送として売
り込んでいる。今回の取材では残念ながら実物を見ることが出来なかった。
7.たそがれの通勤ディーゼルカー-釜山周辺に発し、国内の主要都市周辺で運行され
た旧トンイル号気動車は、一時KTXのフィーダー列車としても機能していたが、今回
の改正までにその多くの列車がムグンファ号に格上げされ、通勤列車として残るのは
ソウル近郊のみとなった。余剰車輌は、ジョイフルトレインやムグンファ号用気動車
として再活用されている。
2.旅客列車
--電機牽引になった光州発ソウル行ムグンファ1424号-京畿道平沢(ピョン
テク)駅付近--
2004年から継続する電化の延伸に対し、列車側も準備対応が進み、電化区間を走る
急行ムグンファ号は、基本的に8200型電機機関車牽引になりました。2008年1月の改
正以降、ソウルからプサン、木浦、光州へ向かう列車の大半は電機牽引です。特にス
ピードアップなどは行われませんでしたが、遅れの回復などにELの性能を発揮してい
ます。
--全区間EL牽引、釜山発ソウル行きムグンファ1210号-慶尚南道物禁(ムル
グム)駅付近--
8200型はドイツの名機関車ES64をモデルにドイツの技術協力をもとに国産開発した、
VVVF制御3相交流誘導電動機方式のハイテク機関車である。メカニズムはシーメンス
製。欧州ではどちらかというと貨物用途の機関車だが、韓国では現地の環境にあわせ
出力は5200kw、実用最高速度150km/hの旅客用機関車として使用されている。2003年
の実用化以降、今年で保有台数は60両を超えた。全国的にムグンファ号牽引の主力と
なっただけではなく、光州発着のセマウル号の一部にも進出している(運用の都合
でDLと共通運用)。
-DK牽引客車も健在-ムグンファ1942号順天(スンチョン)発釜山行きが貨物
を追い抜く-
上記と同じ釜山近郊の物禁駅で撮影。非電化路線へ直通する列車は、途中で機関車
の交換をせず、従来通り全区間DL牽引です。慶尚道一帯には従来からディーゼルカー
によるリージョナル輸送がありましたが、KTXに接続、乗り換え出来る列車として今
年になって再編強化が進み、従来のDCの老朽化もあって、客車ムグンファ号に置き換
えが進んでいます。在来DC使用、客車使用のほか、休車状態だったセマウル用客車の
格下げ車、そして通勤用DCの改造車と、百花繚乱の趣味的にも面白い地域になってい
ます。
--セマウル号朝1番列車、慶州廻り釜田行き--
KTXの利用定着により、セマウル号の役目はKTXの入らない都市とソウルとを結ぶ輸
送の変化しています。釜山行きの多く8往復程度が、浦項や慶州、ウルサン行きや、
馬山行きになっています。従来通り東大邱でKTXに接続するフィーダー列車も生き残っ
ています。
-車内供食サービスの模索が進む-長項線に登場「カフェカー」-
食の国だけあり、食堂車の連結があたりまえだったのも昔のこと、供食サービスの
簡略化は進み、ムグンファ号からは本格的な食堂車がついになくなりました。そのか
わり、今回のダイヤ改正で大きく変わった、長項線には、かつての日本のカフェテリ
アやビュッフェ車のような、カフェカーが登場しました。セマウル号だけでなく、上
記の写真のようにムグンファ号にまで連結されています(これは座席車の改造)。店
員は1人のみ、喫茶のほか、インターネットやカラオケ室などもあり、走るPC房といっ
た趣です。鉄道公社では、うまくいけばこの手のサービスを拡げて行く方針だそうで
す。一方、セマウル号にはまだ本格食堂車がありますが、メニューは幕の内弁当やお
つまみ程度という寂しさです。
-DMZ観光列車として再編、京義線セマウル「臨津江ライナー」-
一昨年に登場してファンを驚かせたソウル北方京義線を走るセマウル号、利用が全
く振るわず、時刻の再編が行われました。今度は午前にDMZ内の統制区間で観光地で
もある、「都羅山駅」へ向かい、夕方ソウルに帰るダイヤになりました。運賃も値下
げされています。
--いわゆるシャトル列車--
KTXの輸送は順調に延び、韓国の交通に定着しました。航空機より安く自由席もあ
り、利用しやすいこの列車は、韓国の商圏や商習慣にも徐々に影響を与えています。
ちょうど日本で新幹線が開通したことで起きた現象に似ており、新規の鉄道需要開拓
に繋がりました。一方、本来ソウル側のターミナルとなる予定だった光明駅はソウル
首都圏にありながら、利用が全く振るわず、色々な対策が行われています。このシャ
トル列車が最たるもので、龍山駅から通勤電車路線を走り、KTXの止まらない江南地
域の通勤駅に停車し、始興分岐点から高速線を光明まで走りKTXに接続します。ゲー
ジも電化方式も在来線と同じKTXならではの技で、日本で言えば、福島の新幹線ホー
ムに奥羽線の電車が乗り入れるような感じです。そのためここまでATSと地上信号が
併設されています。運転間隔がまばらで本数も1時間2本くらいと少なく、利用者も今
の所多くありません。車輌は新型の電車が専ら運用されています。
-定着した広域電鉄(国電)のラピッドサービス-成均館大駅付近の急行電
車-
1998年に仁川方面で本格運転されてから10年が経過したソウル首都圏の通勤電車に
よる急行運転ですが、運転区間の拡大と本数の増加ですっかり利用者に定着しました。
写真はソウルの南隣、龍山駅へ向かう天安始発の急行電車で、来年からは専用の有料
ロマンスカー電車に格上げされる計画です。スピードが速く、沿線都市間バスから利
用者が転移しています。一方、仁川へ向かう急行も、1時間当たり3本から4本と本数
が増え、区間も東仁川まで延びたことから、かなり利用されるようになりました。途
中駅で緩急結合ダイヤもとられ、終点までに2本の先行普通電車を追いこします。貨
物列車とのからみでパターンダイヤでないのが残念です。
「漢江線」の躍進-中央電鉄線ソウル市龍山区西氷庫駅付近
一昨年に中央線の複線化、電車運行開始以来、昨年の暮れにはさらに八堂駅ま
で10kmほど東に延長した、龍山-(漢江まわり)-回基-中央線方面の広域電鉄(国電)
、通称漢江線。延伸とともに、日中は見事な15分ヘッドとなり(ラッシュ時10分ヘッ
ド)、韓国の鉄道としてはめずらしい等間隔ダイヤになりました。今まで通勤に鉄道
を利用出来なかったエリアでもあって、利用者は急増しています。使用車輌は専ら最
新鋭6000型や5000型後期車(通称マティズ)ですが、編成は8両と他線より若干短い。
とりわけ休日のハイキング列車として賑わいます。韓国ではほかに京義線や京元線で
パターンダイヤを構成しています。
--在来線も走るKTX-慶尚道物禁付近--
KTXは在来線直通可能なのが強みで、写真のように大邱から釜山まで全列車そうい
う運転を行っていますが、日に4往復の区間列車は、大田から大邱までを在来線経由
で走行し、金泉や亀尾といった中都市の便宜を計っています。韓国の関ヶ原、秋風嶺
を在来線経由で走る高速列車はのどかなおもむきを感じます。
--2008年8/29から9/1まで取材したものをまとめました。次回は貨物編を紹介し
ます--